尼谷(あまだに)公園は、No.1065 平池公園から少し東に入ったところにあり、北向きの谷斜面を使った保存緑地型の公園です。
写真にすると少しわかりにくいのですが、擁壁の上が樹林地で、ここが公園敷地の広い範囲を占めています。
ところどころに土木的遊具のようなものもあるのですが、実際のところ何かに使えるほどでもなく、散策のアクセントくらいの役割でしょうか。
神戸の人には「パイ山」風といえば思い当たる節もある形・外観をしています。
斜面地部分にも園路は通っているのですが、公園として積極的に使ってもらうというよりは、斜面の上・下の住宅地をつなぐ通り抜け道路のような位置づけかと思います。
唯一、北端の角地が少し広めで、ちょっとした遊びに使えるくらいの平場になっていますが、周囲の住宅地とは高低差があって見えにくいこと、周りには他にも公園があることなどが重なって、ほぼ通り抜けだけのスペースになっています。
あまり子供はこないであろう広場を、リアル動物遊具のゴリラがじっと見守っています。
ゴリラのいた小広場から階段で園外に出たところに、名もなき湧水がありました。
市役所が「この水は飲めません」と注意書きを付けていますが、それにしてはしっかりとした作りになっているので、ずっと昔には水質が良い水が出ていたのかな、とも思うのですが、どう考えても周りの擁壁に開けられた排水溝と同じ水しか出てこないはずなので、なぜこんなに作り込んだのかがわかりません。
いやそもそも、湧水のように見えるけれど、水道局のステッカーが貼ってあるので実は上水道なのかも知れません。
さて、ここ数回、この尼谷公園を含めた神戸市垂水区の北舞子地区を訪ねてきましたが、じつはこのあたりには、20世紀の終わり頃まで東西方向に長く深い谷がありました。
1960年代までは谷底に農地もあったようですが、その後は周りの台地がびっしりと宅地開発されていく中で使いみちもなく取り残された空き地になっており、一部が少年野球のグラウンドや建設会社の資機材置き場のような使われ方をしていました。
ところが、この谷を横断するように明石海峡大橋(神戸淡路鳴門自動車道)のトンネルが通ったため、工事で出る土砂で谷を埋め立て、周りの町と接続する住宅地へと開発されることとなり谷の姿は一変しました。
この無くなった谷を地元では天谷(てんたに)と呼んでおり、バス停の名前にもなっていたのですが、この天谷という呼び名について地元で語られる話があります。
じつは「天谷という地名は存在せず本来は矢谷(やたに)といったものが、これをバス停名にする時に矢の字の書き出しの"ノ"を書き忘れたために天谷になった」というのです。
山陽バスのTwitterに掲載された昔の路線図で確認すると、舞子駅前から舞子墓園前へ向かう路線の中ほどに天谷バス停があります。
しかし「ノの書き忘れ説」はホントかねぇと思ったので、1953年(昭和28年)の地図で見てみました。赤丸あたりが現在の尼谷公園。その左(西)の平池の跡地の一部にNo.1065 平池公園があります。
見えにくいので地図の文字を赤字で拡大していますが、公園がある尼ケ谷の東に矢谷があり、天谷という谷は書かれていないことは確かです。
そして1955年のワラヂヤ神戸市街図。図の方位が若干違いますが、こちらの方が等高線が入っていて、尼ケ谷、矢谷、細道谷の位置関係はわかりやすいです。ここにも天谷は登場しません。
だいたい同じ範囲を、開発が進んだ1972年のワラヂヤ神戸市街図で見ると、もう住居表示が導入されて「なんとか谷」という小字は見られなくなっています。
そして、ここで右下の方に「天谷」というバス停が登場しています。
ここで1955年と1972年の地図を無理やり重ねてみます。
やっつけ仕事でかなりズレている気もしますが、おおまかに現在のバス道は図左の大坪から図右の高平へ尾根づたいに伸びてきて、それが矢谷・尼ケ谷方面から細道谷を登ってくる旧道と交わる近くに天谷バス停が設けられていることがわかります。
駅やバス停の場合、設置場所そのもの地名ではなく「Aの最寄り」の意味でAという名前を付けることはあるので、ここも矢谷への最寄りバス停として設置されたものだろうということはわかってきました。
でも、これだけでは「矢の字の書き出しの"ノ"を書き忘れたために天谷になった」説の真相はまったくわかりません。
ここで私が気になっているのが、尼谷の存在です(やっと尼谷公園の話題に帰ってきました)。つまり矢の字の書き損じではなく、「尼谷」というバス停名にしようとしたのに、尼を天(あま)と漢字そのものを取り違えた可能性もあるのでは、と思ったわけです。
ただまぁ矢谷の方が近いし、そこに市営住宅が建てられたりしているので、最寄りバス停としては矢谷を採用するような気もしますが、せっかく尼谷公園まで来たので、色々調べて昔のことに思いを馳せてみました。
(2021年11月訪問)
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