2360/1000 石炭記念公園(福岡県田川市)その1

2020/02/20

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福岡県田川市は江戸時代からの産炭地でしたが、1900年(明治33年)の三井鉱山の進出により本格的な近代炭鉱が開かれ、それとともに炭鉱町として発展します。
三井は地場企業が持っていた炭鉱を買収し、規模拡大・近代化を推し進めることで、国内最大の筑豊炭田の一角を担うようになります。
しかし、1960年代には国内の石炭作業は衰退し、三井田川鉱業所は1964年に閉山。そのうちの伊田坑の跡地に整備されたのが石炭記念公園です。

このように、地域を代表する公園であり、またかつては日本を代表する産業拠点だったということもあり、約4.8ヘクタールの園内は記念すべきものが目白押し。さらに公園と重複する約3.4ヘクタールが2018年(平成30年)に国史跡「筑豊炭田遺跡群 三井田川鉱業所伊田坑跡」として指定されたところでもあり、記念碑や解説板も乱立気味。
本ブログでも久しぶりの石碑めぐり公園となりました。

なにから書いていけば良いのかというくらいモニュメントだらけなのですが、まずは一番めだつシンボル・二本煙突から。
高さ約45メートルの煙突は、かつては炭坑内の動力施設の排煙に用いられていたものです。

■現地の解説板より「旧三井田川鉱業所伊田竪坑第一・第二煙突(二本煙突) 国登録有形文化財(建造物)」
伊田竪坑開設時に、巻上機および付属設備の動力用として蒸気ボイラーが設置され、このボイラーからの排煙用として、2本の大煙突が築造された。煙突は丸形で、高さは国内最大級。第一煙突はレンガがフランス積みとイギリス積みで造られ、第二煙突はイギリス積み、八角形の台座付で築造されている。
”炭坑節”で「あんまり煙突が高いので、さぞやお月さん煙たかろう」と唄われ、三井田川だけでなく、当時の炭坑のシンボルとなった煙突である。使用当時は絶えず黒煙を噴き上げていたが、巻上機の動力が蒸気から電気に変わると、病院や炭坑の風呂焚などの排煙用として使用された。三井田川鉱業所の閉山に伴い、使用が中止された。

園内はもちろんのこと、市街地のどこからでもよく見える二本煙突は、田川のシンボル。

あまりにも市民に親しまれているためか、私が訪ねた数日前に「111年寄り添う二人」みたいな設定で、恋愛の聖地としてのモニュメント・百年(とわ)の鐘が設置されました。

いわゆる「映えスポット」ですね。
たくさんのハートで形作られた大ハートから、小ハートが沸き立ってきています。

地形の都合上で、設置場所が駐車場の中というのがイマイチですが、田川のみなさんが二本煙突のことを気にかけているという気持ちはよく伝わってきます。

この百年の鐘付近から園内を見下ろすと、園内の半分くらいを使って、二本煙突の巨大な地上絵が描かれています。

大きすぎてわかりにくいので、グーグルマップも掲載。
二本煙突から立ち上る煙に、お月さんが煙たそうにしている絵です。

そう、ここ田川こそが「♪月が出た出た~」でおなじみの炭坑節の発祥の地だそうです。

「でも、歌詞の中で『三池炭鉱の上に出た~』ってなかったっけ?」と思いつつ現地の解説板を読んでみると、もともとは『三井炭坑』だったようです。
専門家の研究によれば、唄が流行してレコードが売れる中で、一部の歌詞カードに「三池」と誤記があったものが広がってしまったとか。

■現地の解説板より「炭坑節」
♪月が出た出た、月が出た~ でおなじみの炭坑節は明治期以降、わが国の近代産業の発展を担ってきた石炭産業の隆盛のなかで、過酷な労働のなかから自然発生的に生まれてきた多くの仕事唄の一つです。
石炭産業の発展につれて、筑豊地方の炭坑では採炭唄(ゴットン節)・石刀(せっとう)唄・南蛮唄・選炭唄などの仕事唄が生まれました。そして、これらの唄が宴席に持ち込まれ、やがて花柳界で選炭唄に三味線の伴奏がつき、洗練されつつ座敷唄として広く歌われるようになったのです。
現在、一般に知られている炭坑節の原型となったのは、三井田川伊田坑で選炭(石炭からボタを取り除く作業)の仕事をしていた選炭婦たちによって軽快なテンポで歌われていた場打選炭唄です。伊田尋常高等学校(現・田川市立鎮西小学校)に勤務していた小野芳香氏が、田川地方の民謡・童謡の調査収集に取り組むなかで伊田場打選炭唄を採集し、明治43年(1910)に一部改曲したものを補習科の生徒に試唱させています。また、大正14年(1925)には、研究授業の参考資料として編纂した「福岡県田川郡民謡・童謡の研究」のなかに「炭坑節(伊田町三井炭坑唄)」として収録しています。これが炭坑節(選炭唄)が記録された最初のものです。レコード化されたのは、昭和7年(1932)のことで、日東レコードから後藤田小唄の裏面に「炭坑唄」の標題で収められています。
いつの頃から炭坑節と一般に呼ばれるようになったのかは定かではありませんが、戦後、炭坑節の名で全国的に流行し、盛んに歌い踊られるようになりました。(田川市石炭・歴史博物館 森本弘行)

もう一度、二本煙突の足元に戻りますと、ここは「第二竪坑櫓跡」と石碑が建っています。
ここにあった櫓は、直方市の記念館に移築された後に解体されています。

■現地の石碑より「第二竪坑櫓跡」
明治40年ころは大竪坑時代と呼ばれているが、伊田竪坑はその代表的なものである。北側に現存しているのが第一竪坑櫓で、この場所は第二竪坑櫓の跡地である。昭和44(1969)年に三井田川炭鉱の後を受けた第二会社新田川炭鉱が閉山するまで使用された。
その後第二竪坑櫓は撤去され、第一竪坑櫓のみが二本煙突とともに炭坑節発祥の地・田川のシンボルとしてその勇姿をとどめている。

で、今も勇姿をとどめている第一竪坑櫓がこちら。
竪坑とは、地下で実際に採掘しているところまで人や物資や空気を行き来させるための穴のことで、人・物輸送のためのエレベーターみたいな機械施設が竪坑櫓。
第一、第二のどちらの解説板にもそういう基本的なことが書かれていないあたりが不親切なように思います。

■現地の解説板より「旧三井田川鉱業所伊田竪坑櫓 国登録有形文化財(建造物)」
伊田竪坑は、三井田川炭礦(後の三井田川鉱業所)が田川開発のため、1905年(明治38年)に工事を開始し、5年3ヶ月の日数を費やして1910年(明治43年)にすべての工事が完了した。竪坑は田川八尺層採掘目的の第一坑(入気用)と同四尺層採掘目的の第二坑(排気用)からなる。第一竪坑櫓は、当時の建設場所のまま現在の石炭記念公園に現存し、第二竪坑櫓は1971(昭和46)年直方市石炭記念館に移築された。両櫓とも高さ約28.4m、鉄製で、イギリス様式のバックステイ形。この櫓は、伊田竪坑が、三菱方城炭礦、製鐵所二瀬中央坑とともに明治日本の三大竪坑と呼ばれ、筑豊が深部採炭の時代に入ったことを象徴したものである。現在、筑豊に残る唯一(第二竪坑櫓は1992(平成4)年に解体)の竪坑関係遺跡となっている。
竪坑(約28.4m)、竪坑内径(約5.5m)、採掘深度(約362m)、利用深度(第一竪坑314m、第二竪坑349m)
《ケージ》 櫓の足元に展示しているエレベーターのかごのような乗り物は、ケージと呼ばれる。これは人や炭車をのせて竪坑内外を上下した2段式ケージ。炭坑節にも「ケージにもたれて思案顔」と唄われている。

ここでも解説文の中に炭坑節が出てきますが、そもそもよく出回っている炭坑節の歌詞には、竪坑櫓もケージも出てきません。

そこで登場するのが、こちらの炭坑節之碑。
さきほどの「炭坑節発祥の地」の碑よりも古いものですが、ここに刻まれている歌詞は「♪香春岳から見おろせば 伊田の立坑が真正面 十二時さがりのさまちゃんが ケージにもたれて思案顔 サノヨイヨイ」となっています。
実際のところ、炭坑節が発生・普及していく中では、様々なバージョンの歌詞があったということなのでしょう。

歌詞の中で「伊田の立坑を見下ろしている」香春岳(かわらだけ)はこちら。石炭記念公園の北5~6キロのところにある山なのですが、頂上の方から順に石灰岩が採掘され、いまは円錐台のようになっているという異形の山です。
そして、その手前に見えるふたコブの山が、資源としては使えない鉱石を廃棄したボタ山。どちらも田川の景観を特徴づけるものです。

再び園内に戻り、田川市石炭・歴史博物館を訪ねます。

と言いながら、時間の都合で館内には入らなかったのですが、屋外に展示されている炭鉱住宅(復元)や、実際に使われていた大型機械類などを眺めることはできました。

炭鉱で使われていたものだけではなく、石炭を使っていた国鉄9600型蒸気機関車も展示されています。
機関車の横に丸型ポストが置かれている理由が今ひとつわからないのですが、機関車さんにお手紙でも出せばよかったのでしょうか。フェンスの向こうなので手が届きませんが。

博物館の裏手には、遊具広場もありました。
なんとなく炭鉱と聞くと山奥のようにも感じてしまうのですが、この公園は田川市の中心にあって、周りは住宅ばかりですので、子供の遊び場も必要です。

遊具にはとくに炭鉱っぽさや石炭風味はないのですが、無理して挙げれば、複合遊具のこのパーツが燃え盛る石炭の炎のように見えないこともありません。

あくまで、あえて言うとするならばだ、という話ですが。

かなり長くなったので、次回に続きます。

(2019年11月訪問)

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