公園名の由来は、三井家の史料編纂を行なう「三井文庫」の拠点として使われていたからで、そのあたりの歴史をしながわ観光協会のサイトから引用すると、次のようになります。
文庫の森は、国文学研究資料館跡地を整備し2013年に開園した公園です。
この辺り一帯はかつて肥後熊本藩細川家の下屋敷でしたが、1890年に財閥三井家の所有となりました。1918年に三井家編集室が日本橋からこの地に移転し、三井文庫が発足。事務棟と書庫2棟が建てられましたが、戦後の財閥解体により、昭和26年部外者に売却され、国文学資料館として多くの学者・研究者に利用されました。現在は第二書庫のみが公園内に保存されています。
ということで、公園の北隅に保存されている第二書庫。2019年(令和元年)に国の登録有形文化財(建造物)になりました。
3階建ての堅牢な建物で、外観の装飾は少なく、「書物の保持最優先!」という強い意思が伝わってくるようです。
建物の周りはフェンスに囲まれており、遠巻きに外観を見学することしかできません。
その代わりでもないでしょうが、かなり詳しい解説板が設置されていました。
■現地の解説板より「旧三井文庫第二書庫(壁式鉄筋コンクリート造3階建て、1922、改修1926)
[歴史]
「文庫の森」一帯は1662(寛文2)年に熊本藩の分家熊本新田藩が下屋敷として拝領、その後本家の所有となり戸越屋敷として整備された。その後、1890(明治23)年に、財閥の三井家の所有となった。やがてこの地に三井文庫が設置されることになり、平家(※原文ママ)の事務棟と3階建ての同形の書庫2棟が、すべて鉄筋コンクリート造で建てられた。事務棟の主要部と第一書庫の竣工は1918(大正7)年で、第二書庫は、事務棟造築とともに1922(大正11)年に完成した。これらの建物を設計したのは、東京帝国大学営繕課長(当時)の山口孝吉(1873-1937)である。このうちで現存するのが第二書庫である。
[構造形式]
第二書庫は、約14m×9mの長方形平面の建物で、空気層を挟む2重の鉄筋コンクリート造壁で囲われている。柱ではなく、壁が荷重を支えるこのような形式は、壁式構造と呼ばれる。大正・昭和戦前期の日本の鉄筋コンクリート造建物にはこの形式は希で、現在知られている限りでは、この建物が最古の現存例である。ちなみに、2重壁にしたのは史料を火災の熱から守るためと考えられる。1階スラブ(床)と屋根スラブまで鉄筋コンクリート造にしているのは当時では珍しいが、建物を不燃材で囲うということで、これも防火のためと見られる。
内部には書架が並んでいるが、その書架の柱を鉄骨にして、その上の梁を受ける構造材としても利用しているのが注目される。梁は、平行に並ぶ書架に合わせて、通例よりも遙かに狭い1.6m間隔で並び、その梁のラインに1.2m間隔で3本1組になった書架の鉄骨柱2組が一列に配されて、6つの点で梁を受ける。この鉄骨による多支点支持は、書籍などの史料の重さに耐える必要があるという書庫の目的にもかなうユニークで巧みな手法で、それにより約9mの梁間では90cm程度必要になるはずの梁の高さを20cmに抑えることもできた。ちなみに、書架の鉄骨柱は、アメリカ製の山形鋼を背中合わせに4本組み合わせて十字型断面(端の柱は2本でT字型断面)にしたものである。
[建築技術史的価値]
1923(大正12)年の関東大震災では、この建物はほとんど被害を受けなかったが、この震災の被害の多くが火災によるものだったことを教訓に、三井文庫は直ちにこの建物の防火性能を高める改修工事に着手した。窓を市松模様につぶして火が入る危険を減らしつつ、残した開口部の内外面に人造石研ぎ出しの防火戸を増設した。この改修工事は1926(大正15)年に完了した。
以上から、この建物は、ユニークで巧みな構造でつくられている点で、日本における壁式コンクリート造建物の現存最古のものと見られる点で、また震災の教訓をすぐに活かして防火性能を高めた点で、建築技術史上注目すべきものといえる。
なるほどなるほど。
窓の間で壁が凹んでいるように見えるのは、もともとあった窓をふさいだ跡だったのですね。
さて、文庫の話はそれくらいにして、公園全体を見回すと、おおむね北半分が広場、南半分が池、外周が分厚く樹林地になっています。
一つ一つの樹は大きいのですが、密度は濃くないため、それほど「森」っぽさはありません。昔はもっと深い森だったのでしょうか。
今風の八ツ橋が架けられた池は、もともとの大名屋敷、三井家所有地のころはNo.2346 戸越公園の池ともつながっていたようです。
今は、見た目には離れていますが、もしかすると暗渠で水の流れはつながっているのかも知れません。
実質的には今も二つで一つ、戸越公園とセットで捉えるほうが良さそうな文庫の森でした。
(2019年10月訪問)
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